「穴」と題された今展は、作家自身の持つ人には見えない穴の中にある隠れたイメージに光をあてて見つめ、それを絵にしていくといったイメージの、工藤の作品作りそのもののようなテーマによって構成されます。
工藤美穂の作品は、主にキャンバスにアクリル絵の具や油彩によって描かれています。感覚的にパターンとして描かれた作品上のモチーフは、壁紙であったり、金網でできたフェンス、風呂場のタイル、シャツの柄など日常の生活の中で、彼女の目にとまったものばかりで、その殆どは、均一に続いた模様を見せているものです。工藤の目にとまったモチーフは、彼女の視覚を通し、その場で記憶され持ち帰られ、その印象だけを頼りに彼女は描き出します。
記憶としてのモチーフは、細部が簡略化され、そのものの印象が直に表現されていきます。それらは、非常に絵画的に彼女の手によって捉えられ、画面上に展開され、偶然性を伴って美しい表情を見せてくれるのです。まるで水面に映り込んだ風景のように、滲みながら微妙に揺らいでいるラインや色彩は、彼女のフリーハンドの手法によるその瞬間にしか生まれ得ない造形です。そしてその表現がまた、記憶の中のモチーフたちという儚げなものの象徴のようにも思えます。
画面上のモチーフは、揺らぎながらも一定のパターンを見せつつ時折、対象物を観察する時に動く視線のように様々な角度でカットされ、重なりあっていきます。そこからは、記憶を平面に置き換えていく行為がリアルに感じられるのです。
工藤作品には、数年に渡り同じモチーフが登場します。何の変哲もない日常の風景も、時刻や季節、光や影によってその表情を変えるのと同様に、彼女は同じモチーフを変化させながら何度も描き続けています。ひとつの形に集中し、繰り返し作品化していくその作業は、洗練を求めているというよりも、その形や作業に対する愛情を感じさせます。
その行為は、それに固執するのではなく、長年の友人のように優しくゆったりとひとつひとつのモチーフを大切に、長く付き合い続けているような印象に見受けられるのです。
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