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彫刻的な正しさ

冨井大裕の作品《support》のサイズが、作家自身の四肢のそれをもとに制作されていることを知っても、我々は大して驚かないだろう。なぜなら、彫刻とはそういうものだからである。彫刻が三次元の物体である以上、作品の制作と鑑賞は常に人体のスケールとの比較によってしかなし得ない。彫刻家にとって空間と対峙するということは、結局自分の身体から出発し、それとどう折り合いを付けるかという問題なのである。人間の体に装着される日用品をマテリアルとする冨井の場合、その影響はより強く現れる。一方で鑑賞者にとっても、作品はそれに触れるまでもなく、既知の物質感とサイズを見るものに伝えるであろう。
加えて、近年の冨井作品に見られる特徴は、垂直性への志向にある。前述の《support》も含めて、上空へ向けてマテリアルが集められていく作品が増えているのは偶然ではない。再び空間に占める物体としての彫刻を考えてみるならば、それは垂直に屹立し、逃れようのない重力に真っ向から挑戦するときに、自らの条件を最もよく引き受けるであろう。直立するための構造と、美的な外観との妥協こそが、かつて彫刻の技術の全てであったことを我々は思い出す。その意味で、人体のスケールから出発した冨井作品は、(建材の使用も含めて)やがては建築的な構造に至るのだろうか、という思いもよぎる。が、そう単純ではないのが、こうした作品と平行して行われている、まるで手慰みのような小作品のシリーズである。
今回も数点出品されているこれらの作品に見られるのは、マテリアルの内部にひそむ「何か」について考え、その答えに迫ろうとする態度である。例えばアルミホイルはローラーで圧延された、それ自体既に手を加えられた(彫刻化された?)マテリアルだが、それを再び丸めて固体に戻すような作業には、モノに加えられた力と変化、つまりは作ることへの疑念を感じずにはいられない。冨井はむしろ、そうした力と変化をとりのぞいたマテリアルにそのものに何があるのか、そしてそこから何が可能なのかを探求しているように思える。そのために彼は一見無意味にも見える還元や操作を行い、手探りの状態で「作ること」以前に近づいていく。
前述の構造=建築的作品を彫刻的原理への同意と見るならば、こうした探求のシリーズは、冨井の彫刻への疑念が形になったものと見てよいだろう。冨井の中でこの二つの作品群は、極めて不自由ながらも切り離すことが出来ずに、もがきつつも制作に向かって匍匐前進するシャム双生児である。しかしだからこそ、作ることの希求と疑念に同時に向き合う冨井の作品には、彫刻の原理と同時に、倫理をも、強く感じるのである。

石崎尚(世田谷美術館学芸員)

 

 

冨井大裕 TOMII Motohiro

1973年新潟県生まれ。1999年武蔵野美術大学大学院造形研究科彫刻コース修了。
日用品の使用と原理的な彫刻の両立を試みる希有な作家として知られる。
これまでに個展、グループ展多数。
最近では、埼玉県立近代美術館での「ニュー・ヴィジョン・サイタマ 7つの眼×7つの作法」に参加。
現在、アーカス・スタジオでの個展「企画展=収蔵展」を半永久的に開催中。

 

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