土屋貴哉展にそえて
土屋は「もの」自体が持つ一つの基準に、彼自身が別の基準を当てはめる事で新しい世界観をそこに出現させたり、世の中でまかり通っている共通認識に対して別の尺度を組み込んでみせる事により、その共通認識とは元々何であるのかと思考させる事で、我々の立ち位置を浮き彫りにさせたりするという方法論を用い、トリッキーで興味深い作品を展開している。
私が彼に初めて出会ったのはとある飲み屋で、彼のポートフォリオを見た瞬間に思わずそのファイルの購入を申し入れた記憶がある。なぜなら私は昔から自分とは方法論が明らか異なる、なおかつ作品そのもの自体の力で見せる事が出来る作家が好きで、彼の作品には無性に惹かれるものを感じたからだ。
今回の展示「モデルチェンジ」でも彼の作品を通して示される別の基準によって、我々は土屋貴哉の世界へ引きずり込まれるだろう。
僕は、バルセロナの街の奥まったところにあるこぢんまりとした広場の木陰にぽつんと置かれたベンチに腰掛け涼を取っていた。突然僕のそばにやってきた老人がスペイン語でなにやら話しかけてきたのだが、スペイン語のまったく分からない僕はしかたなく英語と筆談で応戦する事となった。彼はもちろん英語など話せる訳もなく、ひたすらスペイン語で私に語りかける。タコとイカについて話、シエスタについての話、目の前にあるストリップバーについての話。
はたして彼がそんな話をしていたかどうかは定かではないし、私の話を理解していたかどうかも分からない。でも確かにそこには会話が成立していた。
だって、彼は満足そうに握手を求めの、立ち去ったかと思うと、よく冷えたビールを持って戻ってきてくれたんだもの。(深井聡一郎1995年の記憶より)
深井聡一郎(彫刻家)
土屋 貴哉(つちや・たかよし)プロフィール
1974年東京生まれ。東京都在住。01年東京芸術大学大学院美術研究科修士課程修了。現在、阿佐ヶ谷美術専門学校時空デザイン科講師。主な作品に、歴史的な試合の未使用スポーツ観戦チケットを集めた「小さく前へならえ」、既存のものに最小限の介入をほどこす「思考の観察シリーズ」、六枚の会場案内図のみで構成された「五人の観測員」など。 |