「《見ることの幸せ》への回帰」
幸いにも年に一度は、天本の絵を目にする機会には恵まれてきた。天本の絵は、建築模型を構成しては、日常にありふれていたり、身近にあるなにかを容易に思い起こさせる絵を描き、懐かしい風景を思い出させてくれた。3年ほど前の、switch pointで展示を行っていた頃である。昨年からは、わざわざモチーフを選ばず、絵を描けばすぐ横にあるであろう絵の具のチューブ、生活をともにしている人物の絵が見受けられるようになった。今回、天本の絵からは、徐々に形を失い、繊細な線と微妙なバランスで塗られた面によって構成される絵画へと変化している。モチーフへの興味から離れ、描かれるものが徐々に別の方向に向かっているのだと感じた。
天本の展覧会に文章を書く事を依頼され、最初にもらったメイルに添付されていた絵を見て、正直戸惑った。今まで見ていた天本の絵とは、あまりにも表現が変わってしまっていたからである。文章を書き始める事すら出来ず、戸惑っていると2つ目のメイルが届いた。そこに今回の展覧会のDMに使われている写真が含まれており、戸惑いがわずかに薄れた。その絵には、やはりかつて感じていたどこか懐かしい風景のようなものが含まれていた。未だ訪れた事はないが、思考の片隅で思い描いているユートピアのような場所を。
少し話がそれるが、昨年訪れた展覧会のなかで、印象的な展覧会の一つに川村記念美術館での「モーリス・ルイス 秘密の色層」展がある。モダニズムの絵画に目にする事が出来る久々の機会だと思い気持ちを踊らせながら展覧会を見に行った。そして、期待を裏切る事の無い気持ちのよい展覧会であった。世界的に見ても、モダニズムの絵画の展覧会が多く行なわれている。制作されてから50年以上が経過した、モダニズムの絵画に対して歴史的再評価が進んでいるように思える。
そんな事を考えさせてくれた「モーリス・ルイス 秘密の色層」展で、ルイスはアクリル絵具を使う事にこだわり、技法的なところから表現されることに重きを置いていた事を知った。実際にどのように描かれていたのかはっきり解明されていないルイスの絵画表現は手法を探求し続けた気持ちを表現に残していると強く感じた。
天本の絵画にも、技術的要素が非常に強くなったように思う。本人の言葉には、「技法的なことや色、形の組み合わせ、それに絵肌、そういったことにばかり興味があるようで、何を描く、とかはなんかそのための手段」と書いてあったのを思い出す。
話をもとに戻す。最初のメイルでもらったときの戸惑いは、数回に渡るメイルのやり取りと、そこに添付されてくる写真で徐々に消えた。天本の絵は、描かれているものが変化しても、私の気持ちを、ほどよい余韻に浸らせてくれる。
見るたびに、記憶の片隅にあるなにかに問いかけていた絵画は、そこに描かれているものが変化してはいるものの、その体験は忘れさせないだろう。
昨年からの金融危機は、絵画だけでなく美術作品の評価にも大きな影響をを与える事になるだろう。投資としての評価ではなく、本来の評価へと変わると信じている。この転機に、絵画が技法や色の組み合わせによって生まれてくる、ただただ《見ることの幸せ》への表現と回帰する事を願いながら、変化しつつある天本の絵を見ていたいと思う。
河野通義
過去の展覧会
2005 天本健一展 風景としての建築
2005 lighthouse vol.2河野通義企画 天本健一+山本祐子
天本健一 略歴
1976 神奈川県横浜市生まれ
2002 東京造形大学美術学科絵画専攻卒業
個展
2002 ギャラリーかれん(横浜)
2004 群青 salon as salon(松本)
2005 「風景としての建築」 switch point(東京)
2008 あきる野 ふるさと工房(東京)
ギャラリーニモード(東京)
グループ展
2001 「夜稲派 meltdown」/ アートランド(東京)
2002 「みどりの風展」/ ギャラリーかれん(横浜)
2003 「みどりの風展2」/ ギャラリーかれん(横浜)
「絵をかく人々の集い」展/ ギャラリーかれん(横浜)
2004 「みどりの風展3」/ ギャラリーかれん(横浜)
「絵をかく人々の集い展2」/ ギャラリーかれん(横浜)
「テレク展」/ UPLINK GALLERY (東京)
2005 「二月の庭」/ 饗茶庵 山の家 花蓮(鹿沼)
「みどりの風展4」/ ギャラリーかれん(横浜)
「三人展 大槻英世 天本健一 山本祐子」/ ギャラリーかれん(横浜)
「絵をかく人々の集い展3」/ ギャラリーかれん(横浜)
「light house vol.2 peaceful in landscape」/ switch point(東京)
2006 「絵をかく人々のチャリティ展2006」/ ギャラリーかれん(横浜)
2007 「現代美術作家小品展 もっとテキーラくれII」/ ギャラリーカフェニモード(東京)
「井上実 天本健一展 −散歩と部屋−」/ 文房堂ギャラリー(東京)
「かれん芸術祭」/ ギャラリーかれん(横浜)
2008 「ART IN TIME AND STYLE MIDTOWN VOL.3 “DRAWING”」/ TIME AND STYLE MIDTOWN(東京)
「もっとテキーラくれくれI」/ ギャラリーニモード(東京)

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